イベント企画書はどう書けばいい?書き方や構成のポイントを徹底解説
Withコロナ時代の企業イベントを考える② 周年
周年事業を止めるな!
新型コロナウイルスの第二波により、まだまだ予断を許さない状況が続いている中、少しずつ企業イベントをオンラインやハイブリッド型で実施する動きもみられています。「Withコロナ時代の企業イベントを考える」シリーズの第2回目となる今回の対談では、「周年事業」にフォーカスし、スペシャリストである塩谷久美子からコロナ禍における周年事業についてお話を伺いました。
座談会参加者----------------------------------------------------------------------------------------
塩谷久美子:イベント業界キャリア20年以上
社員コミュニケーション施策、企業の周年事業施策、FC加盟店・販売代理店向けインセンティブ施策等 イベントを通した顧客課題解決を目指し、常にお客様に寄り添いながらニーズに合わせた多彩なイベントをプロデュース。
河野一樹(聞き手):企業がステークホルダーに向けて実施する「表彰式」「キックオフ」「周年」などのイベントを人材・ 金融・医薬・自動車関連業界を中心にプロデュース。イベントを基軸としながらも、その枠だけに捉われず、総合的なコミュニケーション施策を提供している。
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働く価値観のニューノーマルにおけるインナーコミュニケーション
河野
塩谷さんは、現在どのような仕事に携わられていらっしゃいますか
塩谷
イベントをはじめ、クライアント様のプロモーションやHRなどを含めたインナーコミュニケーション全般をプロデュースしています。中でも担当する機会が多いのは周年事業に関するものですね。式典などのイベントを含め、周年事業プロジェクト全体のプロデュースなどを手掛けています。
河野
前回の対談ではモチベーションイベント局のプロデューサーメンバーと、コロナ禍における企業イベントの現状やリアルコミュニケーションのこれからについて意見を交わしました。コロナ禍によって在宅勤務・テレワークが増え、それに伴ってインナーコミュニケーションの在り方も変わってきています。こうした働き方の変化は社員のエンゲージメントにも影響を及ぼすと思いますか。
塩谷
オンラインでのコミュニケーションは増えていますが、職場によってはそれすらも難しいところがあります。たとえオンラインでつながっていても、やはり直接的に会えない、集まれない、というのは、エンゲージメントにも影響を与えていると思いますね。世の中が大きく変化しているので、働く価値観自体もニューノーマルに変わっています。
河野
働く価値観というのは具体的にどのように変わってきたのでしょうか。
塩谷
ワーク・モチベーション研究所の所長である菊入氏と一緒に、withコロナ、afterコロナにおける価値観の変化を検討したのですが、そこでは「使命感」「ギャップマネジメント」「ボーダレス化」「つながり」「社会性」「リアルとオンライン」という6つのキーワードを挙げています(資料)。
在宅勤務やテレワークが増えたことで、社員一人ひとりの裁量・責任が大きくなるため、「使命感」ともいえるような主体性が生まれてきます。働く場所が変わることで仕事の進め方も変わるので、生産性にも影響が現れるでしょう。こうした変化によって生まれたギャップを上手に管理する「ギャップマネジメント」も大切になってきます。
更に、在宅勤務では仕事とプライベートの境界が薄れ、オンラインで仕事をすることで国内/海外の境界もなくなります。こうした「ボーダレス化」はいろいろな人や世界との「つながり」を促進し、今までつながる事の出来なかった人々との絆が生まれていくと思っています。
また、社員側から企業へある種の「社会性」が問われていくとも思っています。
例えばコロナ禍で自分の会社はどのように社会貢献できるのか、また、未来を見据えたSDGsといった社会貢献性の高い取り組みへの関心も増していくのではないかと予想しています。
それから、オンラインでのコミュニケーションに慣れていきながらも、リアルじゃないと伝わらない部分にも気づいていくはずです。ここはどうしても外せませんが、うまくハイブリット型を考えることで「リアルとオンライン」の捉え方も従来とは違う感覚になっていくでしょう。
こういった価値観の変化を念頭にインナーコミュニケーションを図っていくことが、社員のエンゲージメントやワークモチベーションの維持・向上のために必要だろうと考えています。
エンゲージメントを高める未来型周年事業
河野
インナーコミュニケーション促進のための様々な提案において、塩谷さんは特にエンゲージメントを向上させるためのインナーコミュニケーションとして、どのような施策が有効であると考えていますか。
塩谷
担当させていただく際に毎回感じるのですが、企業の周年事業というのはポジティブな変化の大きなきっかけになると思います。というか、きっかけにする、ということです。
通年何らかの形で全社コミュニケーションの機会を設けている企業もあるとは思いますが、周年事業は節目となる年に行われるものなので各ステークホルダーとのエンゲージメントを高める機会としては別次元で重要だと思います。
河野
周年事業は企業のマイルストーンになるものですし、社員たちが自らのアイデンティティを再確認する機会にもなりますからね。周年事業のスペシャリストである塩谷さんにお伺いしたいのですが、そもそも周年事業とは何のためにやるもので、企業経営においてどういう役割や意義を持つものなのでしょうか。
塩谷
企業によって周年事業を行う理由は様々ですが、長年事業を続けてこれたことに対する感謝を社内外に伝えたり、組織改革や新規事業、経営者の世代交代など、ポジティブな変化のきっかけにしていることが多いです。それから、企業理念を改めて社員に浸透させるとか、一体感を強めるという目的もありますね。
また、最近の周年事業は“未来型”になってきています。中でも周年イベントにおいては、以前は全員で歴史を振り返り創業の精神を理解することが中心の厳かな式典が一般的でしたが、最近では現在頑張っている社員を表彰し、社員たちがその企業の未来を語る、という形になってきました。というのも、単に企業の過去を振り返り、その先の未来を感じさせない周年イベントだと、参加している社員たちが自分ごと化できないのです。「この会社にいてよかった。明日からこうしよう」と感じて帰っていただくことがより効果的です。
河野
周年事業が未来型になってきたのはいつ頃からですか?
塩谷
ここ数年ですね。「周年事業でメッセージを送るコアターゲットは誰か?」と聞くと、未来を担う“若手”という回答が返ってくるようになりました。昨今は新卒採用数も増えてきていたので、その影響もあるのかもしれません。ターゲットが若手になったことで、“TOPメッセージがあって偉大な歴史を振返る”だけではなく、そこから若手中心の未来につながるワンアクションを、“みんなでワクワクできるような楽しいことをやろう”という風に変わってきました。
自分ごと化を促す演出
河野
周年事業が未来型になっているというのはわかりました。では、どういった方法で未来を表現していくのでしょうか。
塩谷
長期の経営戦略が明確に決まっている企業であれば、それを分かりやすくトップから伝えていけば良いのですが、必ずしもそういった企業ばかりではありません。そういう場合は、例えば社員の方に、「自分がこうしたい、将来この会社でこんな風に活躍したい」といったそれぞれの目指す未来を語ってもらう等が効果的ですね。若手・ベテラン・海外のメンバーなど、多彩な人たちに語ってもらうとさまざまな未来が見えてきます。そうすることで、周囲のメンバーも納得したり共感したりしながらそれぞれの未来をその場でイメージできます。
河野
社員たちに語らせることによって、企業の未来を自分ごと化させていくわけですね。私は、平成の後半から令和にかけて、企業のプライオリティが組織優先から個人優先にシフトしてきたと感じています。個を尊重する時代になってきたと。だからこそ、自分ごと化してもらうことが大切になり、インナーコミュニケーションのニーズにもそれが反映されているのかもしれないですね。
塩谷
結局、一人ひとりに自分ごと化して考えてもらわないと、周年事業を通じて理念を共有するにしてもエンゲージメントを高めるにしても効果が出ないのです。ですから、とある企業の周年事業を行った際にも、単にこれまでの歴史を振り返るだけでなく、同時に自分たちの現在や未来につながるようなコンテンツを作りました。その結果、周年事業に対する効果測定でも満足度が97%という高評価でしたね。とくに若手からの評判が良かったようです。
河野
企業の歴史もそれぞれの転換点でキーマンになるような個人にフォーカスすると、一つのドラマとして面白いですよね。「どういう風に考えて、そう決断したのか」と、事実を伝えるだけでなく、背後にある理念や人間ドラマも見せる。そうすることで、無機質な歴史に血が通い、社員たちにも当事者意識が芽生えてくるのかもしれませんね。
塩谷
テクニック的な話をすると、周年イベントなどで司会者やストーリーテラーに単に事実だけを語らせるのではなく、参加者たちに問いかけるような言葉を入れていくんですね。「皆さんはどうですか?」と。そうやって自分ごと化して考えるきっかけを作る。演出ではそれがポイントになってきます。プロデューサーとしては、そういったことをお客様ととことん話し合っていますね。「このセリフは誰に向けているのか」というのを。
あとは懇親の場を作るというのもすごく重要で、立食パーティーのような形でいろいろな人とコミュニケーションを取れるようにする。そうすると、「さっきのあれ良かったね」とか「あれどうだった?」といった感じでインプットしたものをアウトプットでき、発信したメッセージも個々人の中でより印象に残ります。
With コロナ/Afterコロナにおける周年事業
河野
周年事業で考えるべきポイントをいろいろと教えていただきましたが、現在のコロナ禍を踏まえると、できることも限られてくると思います。この状況で周年を迎える企業は、どのように周年事業に向き合っていけば良いのでしょうか。
塩谷
現在もご相談はたくさんいただいていて、そこでよく話すのは、「コミュニケーションを止めちゃいけない」ということです。「コロナで集えないから、周年イベントは中止しよう」と判断される企業様もいらっしゃいますが、リアルで集まれなくとも周年事業を実施する手段はあります。ただでさえ気持ちが落ち込んでいるのに、未来に向けた明るい話題も無くなればモチベーションは下がっていく一方なので、できるだけコミュニケーションをとれる施策をすることが大切かなと思います。ただし、2020年~2021年に周年を迎える企業と2022年以降に周年を迎える企業では、少し考え方が違ってくると考えています。今年と来年は無理でも、2022年には集える状況に戻るのではないかという予想があるからです。2020年~2021年に周年を迎える企業の場合、すでに何かしらの活動を始められていると思うので、それを中止するのではなくオンラインなどの可能な形に切り替えるという方法もあります。
一方、2022年以降に周年を迎えるのであれば、コロナが去っていたとしても単純なリアルイベントではなく、オンライン技術も活用したハイブリッド型のイベントを実施することも検討が必要かもしれません。コロナ禍によってオンラインの可能性も広がっていますので、リアルで集まれる人は集まりつつ、地方や海外などの遠隔地のメンバーはオンラインで参加するといった形にすれば、より多くの人たちとつながることができます。
それから、周年事業は数年かけてやるものなので、事業自体はスタートしつつもピークとなるイベントの時期を先に設定するという考え方もあります。2022年~2023年にかけて周年を迎えるのであれば、今から周年事業をスタートして、2年先、3年先にピークとなるイベントを実施して周年事業を終えるという形でも良いのかもしれないです。
河野
一つ懸念しているのは、コロナ禍によって業績が著しく落ちてしまった企業だと、業績的な問題から周年事業を諦めてしまうところも出てくるのではないかというのがあります。打撃を受けている企業だからこそ、一体感を作っていく必要があるとは思うのですが……。
塩谷
業績が厳しく周年イベント等規模を縮小すると考えて当然のことだと思います。
しかしながら、「何かはせっかくだからやりたい」というクライアントが多いです。中止してしまうことによって企業と社員、ステークホルダーとのコミュニケーションチャンスが遠のいてしまっては、業績向上のエンジンであるモチベーションがなかなか上がりにくくなっていしまします。お金をかけずにできるものもありますので、そういった方法を一緒に考えていけば良いと思います。
周年事業の事例について
河野
今現在、実際に周年事業をやろうとしている企業は、具体的にどんなことをやろうとしているのですか。
塩谷
今年周年イベントの開催を予定しているIT企業の例ですが、そこでは若手が中心となってプロジェクトを進めており、「何か楽しいことをやりたい」という要望がありました。そこで興味を持ってもらったのが、ギネス記録に挑戦するというプランです。普段はエンジニアの方たちが別々の現場に常駐しており、なかなか一つになることが難しいので、「みんなが揃うイベントなら、一つになるような何かをやりたい」と。そこでいろいろと準備をしていたのですが、このコロナ禍が起こってしまった。一旦は中止しようかという話も出たのですが、皆さん、「やっぱり何かやりたい」という思いがありオンラインを使ったギネス記録への挑戦をすることになりました。
河野
オンラインで参加できるギネス記録というのもあるのですね。
塩谷
コロナ禍によって新しくそういったジャンルが作られたのです。一例を挙げれば、SNSなどの動画プラットフォームにビデオ・チェーンを投稿し、そのつながった数を競うというものがあります。ビデオ・チェーンというのは、一つ目の動画で何らかのアクションをし、二つ目の動画を作る人が前の人のアクションを受けて、自分もアクションをする。それを繰り返して、あたかも個別に撮った動画がつながっているように見せるものです。
河野
SNSを活用したギネス挑戦というのは若い世代にも受けそうですね。「コロナ禍だから周年事業を諦める、やらない」ではなくて、オンラインなどで何かしらできることを考える。リアルイベントが不可能でも、活用の仕方によってはオンラインでも一体感が作れるということですね。
塩谷
それから、これは2022年に大きな周年イベントをやろうとしている企業の例なのですが、国内の会場でリアルイベントを行うだけでなく、オンラインを使って世界中の社員をつなごうというという話になっています。これまでのリアルイベントでは、海外からは代表者のみが出席していたのですが、オンラインのコミュニケーション技術が発達してきたので、リアルとオンラインのハイブリッドで全社員をつなごうと。
河野
コロナ禍で何をするにしてもついついマイナス要素ばかりに目がいってしまいがちですが、オンラインだからこそできることもあるわけですね。
塩谷
マイナスではなく、“プラスオン”という考え方ですね。このイベントもリアルイベントだけでやろうとしていたときには約4000名というのが参加可能な人数だったのですが、オンラインとのハイブリッド型にすることで、参加人数が数百名プラスされる予定になっています。
周年事業総合プロデュースの秘訣
河野
塩谷さんは周年事業の準備段階からコンペの準備などもお手伝いされているとのことですが、クライアントのご担当者としては一番悩むところですよね。予算を取るために周年事業の位置付けを整理する必要もありますし。そこはどのようにサポートしているのですか。
塩谷
コンペをするにしても、何をやりたいのかを明確にしておかないと見当はずれなプランが出てきてしまうので、まずはフレームをしっかりと作ってもらうようにしています。
「周年イベントをやりたい」という要望があれば、「なぜやるのか?」といった目的や「どういう体制でいつからやるのか?」といったプロセスのイメージを伺うようにしています。そういったところから噛み砕いていくと、「そのためには、これが必要ですね」と具体的な課題が見えてくるので、他社の事例を紹介したりしながら方向性を固めていきます。
ただ、選択肢が多すぎると逆に迷われてしまうので、選択肢は選択肢として提示しつつも、プロとしての目線から「ここはこうしたほうが良いですよ」というアドバイスをしています。それがそのままオリエンシートになることもありますね。
河野
コンペの前からクライアントのやりたいことを一通り引き出して整理し、さらにコンペではそこに合致したご自身のプランを出しているわけですね。
塩谷
周年事業はイベントにばかり目が行きがちですが、それ以外にもコンペの準備など内外に対して行うべきことが多くあるので、断片的ではなく全体を把握して進めるべきです。イベントをより良いものにするためには、「イベント自体への社員のエンゲージメントをどう高めていくか」といった事前の流れも考えなくてはいけませんから実行委員会のパートナーとして全体を共有しながらサポートしていけるのが、私たちの売りだとも思っています。
河野
イベントだけでなく、まさに企業全体のコミュニケーションの設計という目線で周年事業に向き合っていくということですね。
塩谷
それには、花火みたいに“打ち上げて終わり”ではなく、そこで生まれた良い効果を継続させていくところまで含めて提案する必要があります。ですから、周年事業が終わった後にはちゃんと効果を測ったほうが良い。周年事業を実施すると、少なからず社員のエンゲージメントは高まります。エンゲージメントが高まれば、ワークモチベーションも高まる。ワークモチベーションが高まれば、それはパフォーマンスへとつながっていき、最終的に企業の業績につながるわけです。それには、継続してPDCAを回していくことが大事。私たちも長期的なプロジェクトサポートという形で、お手伝いしていくことが必要なのだろうと思います。