参加者とのエンゲージメントを最大化させる新しいビジネスイベントとは?
~JTB Engagement Festivalの事例紹介~

JTBコミュニケーションデザイン(以下、JCD)では、株式会社JTB(以下、JTB)が主催する既存顧客との接点を強化するビジネスイベント「JTB Engagement Festival」の企画・プロデュースを担当しました。どのような狙いでコンテンツを企画し、イベントをプロデュースしていったのか。イベント運営の裏側や成功の秘訣を、企業イベントのプロデュースに長年携わる國原と吉井に語ってもらいました。

ビジネスイベントに行動経済学の要素を取り入れ
参加者に刺さるコンテンツを企画

吉井
コロナ禍を経て、ビジネスイベントに変化が生じています。コロナ禍前のビジネスイベントでは、情報提供やプレゼンをして正確な情報を伝えるといった「ビジネスニーズ」を満たすだけのものがほとんどでした。ですが、現在はイベントの主催者と来場するお客様がより深い繋がりを結ぶことを求めているため、「ビジネスニーズ」に加えて、「フィジカルニーズ」と「エモーショナルニーズ」の要素が欠かせなくなってきています。JTBグループでは、イベントにおける「エンゲージメント」を強化するために、この3つのニーズを満たすことが大切であると考えています。

「フィジカルニーズ」とは、会場をバリアフリーにするなど誰でも来場できる設計にすることを指します。しかしこれだけではなく、イベントの来場者が具体的な体験をすることのニーズが高まっていると私は考えています。ですから、実際に商品を試すことができたり、体を動かしてサービスを体験することができたりといったことも「フィジカルニーズ」と呼んでいます。そしてもう一つの「エモーショナルニーズ」ですが、今は多くの商品やサービスが飽和状態にあるため、理屈だけでは選ばれなくなってきています。ビジネスイベントにおいても参加者の感情を動かす仕掛けが必要なんですね。JTBグループが手掛けてきたインナーイベント(従業員・取引先向けイベント)では、「エモーショナルニーズ」を大事な要素と捉えていますが、今はビジネスイベントにおいても同じように考えています。

さらに、JTBグループ内では「エンゲージメント」の源は「繋がり」にあると捉えています。一般的にビジネスイベントでは、「主催者」と「参加者」とのエンゲージメント(繋がり)だけを優先しがちです。ですが、本来のビジネスイベントの価値とは、来場した「参加者」同士が出会い、新しいビジネスの「繋がり」を作ることなんですね。ですから、JTBグループでは参加者の心を動かすエモーショナルな演出を取り入れ、「参加者」同士がエンゲージ(繋がる)するようにビジネスイベントを構築しています。

これらの考えを取り入れながら、JTBが顧客に対して自社がもつ様々なビジネスソリューションを紹介するビジネスイベント「JTB Engagement Festival」を企画・プロデュースしました。「フェスティバル」をテーマにしたこのビジネスイベントは、エンゲージメント(繋がり)を生み出すために、「ビジネスニーズ」「フィジカルニーズ」「エモーショナルニーズ」3つのニーズを重要視しており、「フェスティバル」というテーマを参加者に印象付け、より深いコミュニケーションを促進するために、イベント内容に行動経済学のエッセンスも取り入れています。第一印象には「WOWファクター(人の心を動かす要素)」の必要性、イベント参加中 には予期せぬものを見たという「サプライズ」、そして最後はポジティブな印象を記憶して持ち帰ってもらうこと。この3つを満たす企画や演出を主催者であるJTBとアイデアを出し合いながら考えていきました。

※今回取り入れた行動経済学のエッセンスは、人間の意思が合理的なものだけではなく、認知のクセや感情、状況のような「エモーショナル」な要因によっても決定される、という学説を元に抽出されています

16ものセッションやワークショップを
構成段階からコンサルティング

國原
まず、第一印象で参加者に「WOWファクター」を与えるためにこだわったのが、会場内の装飾や演出です。初めに得た情報が印象に残り強い影響を与えるという心理効果を初頭効果というのですが、会場をカラフルなバルーンやバナーで装飾したり、受付にDJブースを設置したりするなど、フェスティバルらしい空間づくりを意識しました。また、参加中の「サプライズ」には、ビジネスイベントではあまり見かけないパターゴルフなどのゲームコーナーや大道芸人などのエンタメ要素も取り入れました。これはゲームなどを通じて参加者同士で交流してもらい、エンゲージメント(繋がり)を生み出すことを目的としています。

加えて、提供する料理もコミュニケーションを活性化させるための要素となります。そこで、フードに関してもケバブやアイスクリームのほか、フェスティバル感のあるメニューを用意しました。このように、FUN(楽しむ)要素や小さなサプライズを散りばめることで、来場者の感情に訴えかける「エモーショナルニーズ」、そして参加者同士が交流することで新しい繋がりを生むといった「フィジカルニーズ」「ビジネスニーズ」を満たしていきました。

吉井
とはいえ、ビジネスイベントなのでただ楽しいだけではなく、JTBのソリューションを伝えていかなければ意味がありません。そのために今回は、参加者が興味に合わせて聴講・参加できる計16の多様なセッションやワークショップを会場全体で断続的に実施しました。ワークショップでは一方的にセミナーを聞くだけではなく、横の繋がりを増やすために同じ興味をもつ来場者同士のグループワークを行い、「ビジネスニーズ」に加えて「フィジカルニーズ」も満たし、参加者同士の「エンゲージメント」も生み出してもらえるように企画しました。

各セッションにおいても、内容の構成からJCDが携わりました。ビジネスイベントでは、自社の伝えたいことだけを話すセッションが多いのですが、それでは参加者の共感をなかなか得られません。ですので、必ずJTBの顧客を招いた対談形式にし、顧客が叶えたいビジョンに対してJTBがどのように実現への手助けをしたのかを話してもらうようにしました。通常であれば、主催企業のマーケティング担当などがセッション構成を考えることが多いのですが、今回はどのようなセッション構成にするか、対談相手にはどんなことを話してもらうのかなど、より参加者に腹落ちしてもらう内容にすべくJCD側でしっかりと吟味し、分析やコンサルティングを行うことで、エンゲージメントが高まるセッションになるよう心がけていきました。

また、来場者に好評だったのが、行動経済学セッションです。会場内をツアー形式で回り、今回のイベントの裏側を行動経済学の視点から解説していきました。定員を上回る参加希望があったため、急遽リピートセッションを開催するほど盛況で、最近の傾向としても一方通行ではないセッションが求められているのだと改めて実感しました。

どんなにセッションの内容がよくても、情報を詰め込みすぎてしまうと参加者は説明を聞くだけで疲れてしまい、ネガティブな印象で終わってしまいます。行動経済学のピークエンド効果では、ある出来事に対する印象や記憶は、感情が最も高まったピークの出来事とその終わりごろの出来事だけで決まり、それらが全体的な印象を決定づけるという法則があります。ですから、いかに最後にポジティブな記憶を残せるかを大切にし、「JTBに依頼すれば解決できそうだ」というポジティブな印象を持ち帰ってもらえるように注力していきました。

これから主流となるのは
参加者の記憶に残すエモーショナルなイベント設計

吉井
「JTB Engagement Festival」は、私たちの中でも新しいビジネスイベントとなりました。それは、インナーイベントで重視している「エモーショナルニーズ」をビジネスイベント(アウターイベント)にも応用した点。そして、イベントのコンセプトの企画や空間設計・演出だけではなく、セミナーの構成、ワークショップなどのコンテンツ作りに至るまでをプロデュースしたという点においてです。

最初にも触れましたが、コロナ禍を経てビジネスイベントのあり方が大きく変わっている中で、ビジネスイベントにおいても参加者の心を揺さぶるようなエモーショナルな要素を取り入れなくては、参加者の記憶には残っていかないと思うんですね。ですから、自分たちが伝えたいことだけを一方通行に伝えるだけのビジネスイベントでは、本当の意味でイベントの成功はならないと考えています。多くのお客様とお話させていただく中で聞こえてくるのは、ビジネスイベントにおけるコンテンツの企画やイベント設計の課題感です。それほど、参加者に満足してもらうビジネスイベントを作り上げることに課題を抱えている企業が多いんです。

國原
自社に関する情報を一方的に詰め込んでしまうビジネスイベントが多い中、これから主流となっていくのは参加者の心を動かし、最後には面白そうな会社だと思ってもらえるようなビジネスイベントだと私も感じています。そのために、ビジネスイベントにおいても非日常の体験設計を取り入れていく必要があります。そういった意味でも、今後はインナーイベントとアウターイベント(ビジネスイベント)がクロスオーバーし、主催者と参加者、そして参加者同士のエンゲージメント(繋がり)を生み出すイベント設計やコンテンツ作りが求められてくると考えています。

参加者の記憶に残るようなビジネスイベントを開催したいけれど、どんなイベント設計にしたらいいのかわからない方は多いかもしれません。そんな時こそ、私たちJCDにご相談いただければと思います。「ビジネスニーズ」「フィジカルニーズ」「エモーショナルニーズ」を取り入れた、参加者の心を動かすエモーショナルな空間設計や演出構成から、ポジティブな記憶を持ち帰ってもらえるようなコンテンツ企画まで、イベントのプロフェッショナルがお手伝いいたします。

國原 尚史
コーポレートソリューション部
モチベーションイベント局
エグゼクティブプロデューサー

JCDの前身であるJTBモチベーションズに入社し、約15年もの間、企業のインナー向けイベントプロデュースに携わる。趣味はキャンプと週に2~3日のジム通い。筋トレを好きなものを好きなだけ食べるための免罪符としながらも、真面目にトレーニング。

吉井 和人
コーポレートソリューション部
モチベーションイベント局
スペシャリスト

イベントプロデューサーとして、製薬企業やIT企業の案件等に長年従事し、ハイブリッド/オンラインイベントのプロフェッショナルとして研修の講師も担当。JCD社内で「DX吉井塾」を開講し、イベントテックに関するノウハウをはじめ広くDXに関わるトピックを社内にシェアし、社員のデジタル思考の促進のために精力的に活動をしている。現在はデジタルを活用した新たなイベントの形を開発している。

*肩書きはインタビュー(2025年02月)当時のものです。