「これからのコミュニケーションデザイン」対談 Vol.2

リアルコミュニケーションとは、
場の空気感を感じること。
選抜式リアル、時差式リアルって?!

「SNSやメールだけでなく、リアルなコミュニケーションを大事にしたい。」

これは、2018年のコミュニケーションに関する希望をたずねたときに、1位になった項目です。なぜ、リアルなコミュニケーションが求められているのでしょう。リアルなコミュニケーションっていったい何でしょうか?社内イベントの専門家に聞きました。<聞き手:菊入みゆき>

 

リアルコミュニケーションに近い、選抜式リアル、時差式リアル

塩谷
社内イベントに関して言えば、みなが同じ場に居るというリアルコミュニケーションは非常に大事です。企業のご担当者も、社員を「集められるものなら集めたい」と思っています。双方向でやりとりできますし、参加した人が参画意識を持てます。でも、物理的にもコスト的にも、全員集合が難しい場合もあります。

菊入
リアルは無理、しかしリアルに近く、という場合、どんな方法がありますか。

塩谷
「選抜式リアル+伝播」という方法があります。選ばれた人がリアルに集まり、結果をみなに伝播ささせるのです。例えば、役職者会議、店長会議です。
この場合、大事なのは、事前事後の仕組みです。事前に、課長や店長に、営業所内、店舗内の社員の声を拾ってもらいます。皆の声を持って、リアルの会場に来る。会場では、みなの声を共有し、その結果こうだった、というフィードバックを職場に持ち帰るのです。すると、社員も、「課長、どうでしたか?」と聞きやすいですよね。このとき、手ぶらではなく、会議の結果をわかりやすく伝えられるリーフレットなどのツールがあることも重要ですね。

 

武田
非常にバーチャルなのですが、かなりリアル感があった事例があります。あるメーカーの社内のベストプラクティスを共有する、という取り組みです。各拠点でベストプラクティスにノミネートされたチームに、会議室でプレゼンをしてもらいます。それを動画撮影し、見やすく編集して、イントラにアップします。全社員に見てもらうために、一人一票の投票スタイルを取り入れました。
面白いことに、それまでの限られた役職者による審査とは違うプロジェクトがランクインするんですよね。売上だけでは測れないバックオフィスでの取り組みとか、人事部門の採用戦略とか。社員視点での「いいね」が、リアルに現れました。 撮影された動画を後で皆が見る、という、時差式リアルとでも言いましょうか。

自己決定感がリアルを創出する

塩谷
甲子園方式もリアル感を創出しますね。数万人の社員を抱える企業での取り組みです。接客スキルの社内コンテストを実施しているのですが、今回は、全国のエリア別に予選を行いました。トーナメント戦で勝ち抜き、全国大会での決勝戦はリアルタイムで動画を配信したのです。
甲子園の高校野球と同様、自分のエリアから出場したチームを応援したくなるもので、関心を持って見てもらえます。その企業では業態が複数あるので、エリアで予選を行うことで、業態間交流も生まれました。

武田
ある外資系企業では、毎年、営業戦略やマーケティング戦略などの会社の経営戦略を共有するキックオフ会議をやっています。これは、全社員を集めてリアルにやっているんです。しかし、どうも共有がワンウェイとなってしまい理解が深まらないという課題がありました。
プログラムを見せてもらったんですが、非常に、長いんですよ。時間的に。トップのスピーチから始まり、延々夕方深くまで。しかもプレゼンスタイルなので、一方的に話をする・聞くというスタイルです。この縦に長いプログラムを横にしちゃったらどうかと提案しました。各戦略の担当リーダーが同時に、複数のブースでプレゼンをし、社員は自分でブースをめぐり聞くんです。結局は全員が全部のブースを回って聞くんですが、1ブース当たりの人数は圧倒的に少なくなり、それぞれで疑問点をQ&Aを通じて解決できます。いわゆる腹落ちってやつです。
参加者は、最初はちょっと面倒臭いという感覚があったようです。しかし、終わってみると、「直接リーダーに質問できて深く理解できた」という声が大半を占めました。

菊入
自己決定理論というモチベーションの理論があります。人は自分で決めたことにはモチベーションが湧くんです。ブース方式では、自分でブースを選ぶ、自分で質問する、という自己決定感があることで、モチベーションが高まったと考えられます。

 

うまくなくてもいい、日常の仕事のリアル

菊入
リアルコミュニケーションになればなるほど、自分でしっかり話したり質問したりする必要があります。しかし、多くの人がコミュニケーションに対する苦手意識を持っています。このあたりは、どうなのでしょうか。

 

塩谷
例えば、社内の好事例共有会など、プレゼンテーションになれていない社員が自分で発表をしなくてはならないという場合。最初からかっこいいプレゼンを目指す必要はないと思います。あるアパレル企業様の場合では、発表者が、いわゆるビジネスプレゼンは出来ないという前提で、今までは映像を作成して流し事例を共有していたそうです。
でも、今回は私が対象者にインタビューをし、日常の仕事の話を突っ込んで聞かせていただきました。そうすると、すごくいい話や想いの詰まったキーワードが出てくるんですよね。そういう話をしましょうよ、ということで、本番では、ステージを歩き回るウォークアラウンドスタイルで、ご自身のことばでフランクに語ってもらいました。会場の皆さんの反応を見て、やりとりをしたり。すると感情も表現されて、涙を流す方もいました。これこそ、リアルコミュニケーションの素晴らしさだと感じました。 その企業の役員様が「うちの社員がこんなにプレゼンが出来て、伝わるんだ!」と驚かれた事例です。

菊入
いわゆる、うまいプレゼンでなくても、受賞者の仕事のリアルが伝わる、そして、会場とのリアルなやりとりがある、ということですね。

武田
人間味を見せるというリアルもあると思います。ある企業では、5つのバリューを掲げているのですが、毎年、それぞれのバリューを最も実践した人を表彰しています。この表彰式では、5人の受賞者は会社のヒーローだ、ということで、シンボリックに5人のヒーローコスプレをしてもらいプロモーション映像を制作しました。大人の本気のコスプレでして、プロのメイクと衣装が入り本格的です。普段まじめで、しかも優秀な方々が本気で皆を楽しませようと取り組んでいる姿に、社員の皆さんはもう大うけです。現場は大爆笑で、映像の音声が聞き取れないほど盛り上がりました。

 

菊入
手の届かない優秀な人、というよりも、同じ人間なんだ、と思えたわけですね。モチベーションの伝播理論でも、あまりにかけ離れた相手からは、伝播が起こらないことがわかっています。受賞者を身近に、リアルに感じることで、モチベーションが伝わったのでしょうね。

武田
ヒーロー名を文字って、いじられていましたよ。とてもいい雰囲気でした。

ワンウェイは、リアル効果をマイナスに

菊入
リアルコミュニケーションといっても、ただ、集まればいいということではないのですね。逆に集まらないリアルもあるわけですね。

塩谷
せっかく同じ場に集まったのに、一方的に経営陣からの話が延々続く、というイベントもけっこうあります。そういうワンウェイ式だったら、なにもリアルコミュニケーションである必要はないんですよね。みんなで集まってDVDを見ているのと同じことになってしまいます。リアルの効果も台無し、むしろマイナスという場合もあります。場の雰囲気がどんどんマイナスに変わる瞬間も、見てきています。

菊入
最後に、リアルコミュニケーションとは何なのでしょうか? 本日の大命題への回答をお願いします。

塩谷
リアルコミュニケーションとは、場の空気感を一緒に感じること、だと思います。今後はバーチャルであってもリアルな空気感を持てるようなデザインを提供していきたいですね。

武田
リアルコミュニケーションとは、人と人との対話だと考えています。会社対社員ではなく、人と人、と考える。会社も人格を持った1人の人ととらえると、リアルに実感を持ってコミュニケーションをデザインできると思います。

菊入
塩谷さん、武田さん、今日は、ありがとうございました。

 

PROFILE

塩谷 久美子

ミーティング&コンベンション事業部 モチベーションイベント局

モチベーションイベント®ゼネラルプロデューサー。
企業の経営課題のひとつである「コミュニケーション課題」をイベント・プロモーション・HR施策など複合的な手段で解決するコミュニケションデザイン提案を業界問わず、得意としている。JCD主催の企業向け周年事業セミナーで講師を務める等、モチベーションイベント®を多くの企業へ伝えている。

 

PROFILE

武田 大介

ミーティング&コンベンション事業部 モチベーションイベント局

イベントプロデューサー。
企業の経営課題のひとつである「コミュニケーション課題」をイベント施策を通じて解決するプランニングを得意としている。おもしろ企画担当として、クライアントの課題をユニークな切り口で解決をはかっている。

PROFILE

菊入 みゆき

ワーク・モチベーション研究所 所長

25年にわたり、ワーク・モチベーションに関する研究、調査、コンサルティングを行う。「モチベーション・マネジメント―組織活性化の処方箋」(経団連出版)、「やる気が出なくて仕事が嫌になったとき読む本」(東洋経済新報社)等、著書多数。博士(生涯発達科学)。


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